縁結びの神社、と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、出雲大社かもしれません。
その出雲に祀られているのが、オオクニヌシ(大国主大神)です。
縁結びという言葉だけだと、どこかロマンチックな印象が先に立ちます。でも古事記に描かれているオオクニヌシは、何度も傷つき、何度も裏切られ、それでも他者への優しさを失わなかった神様です。「縁を結ぶ」という言葉が、彼の人柄から来ているのだと知ると、出雲大社の景色が少し変わって見えるかもしれません。
どんな神様か
オオクニヌシは、男神として描かれる神様です。スサノオの子孫にあたる、地上の神々(国津神)の代表的な存在として登場します。
司るとされてきたものは、国づくり、縁結び、医療、農業。地上を耕し、人や生き物の暮らしを成り立たせるところに関わる神様、と言ってよいかと思います。
別名がとても多い神様でもあります。オオクニヌシのほか、オオナムチ、ヤチホコ、ウツシクニタマなど。古事記には、それぞれの名前がそれぞれの時期の彼を表している、という形で記されています。ひとつの神様が、いくつもの顔を持って語られてきた、ということです。
因幡の白兎
オオクニヌシの人柄を、いちばんよく示している話があります。「因幡の白兎」です。
ある時、たくさんの兄たち(八十神/やそがみ)が、美しい姫——ヤガミヒメ——に求婚しに行くことになりました。オオクニヌシは末の弟で、兄たちの荷物を持たされて後ろをついていきます。
途中で、毛を剥がれて泣いている一匹の兎に出会います。鮫を騙して海を渡ろうとして、最後に正体がばれて毛をむしられ、赤い肌で泣いていた兎です。
先に通った兄たちは、兎にいたずらをして「海水に浸かれば治る」と嘘を教えていました。兎はその通りにして、より痛みに苦しんでいました。
オオクニヌシは、兎に正しい治し方を教えます。きれいな水で体を洗い、蒲(がま)の花粉の上で寝るように——その通りにすると、兎の体は元に戻りました。
そして兎は、こう告げます。ヤガミヒメと結ばれるのは、兄たちではなく、あなたです。
何度も殺されて、何度も生き返る
優しさを示したオオクニヌシでしたが、その後の物語は、決して順調ではありません。
兄たちは嫉妬し、彼を何度も殺そうとします。
- 焼けた岩を「赤い猪が来る」と偽って転がし落とす
- 木の裂け目に挟んで潰す
オオクニヌシは、文字どおり何度も死にます。そのたびに、母や女性の神様たちの助けで生き返ります。
そして最後には、スサノオのいる根の国(地下の世界)へ逃げ込みます。
スサノオの娘スセリビメと出会い、恋に落ち、スサノオから次々と試練を与えられます。蛇の部屋で寝かされ、ムカデと蜂の部屋に入れられ、矢を取りに荒野へ放たれる——そのすべてを切り抜けて、最後にはスサノオから「お前はもう一人前だ」と認められ、剣と弓と琴を授かり、スセリビメと共に地上に戻ります。
そこから、彼は本格的に地上の国づくりを始めます。
なお、日本書紀ではオオクニヌシの物語は古事記ほど詳しく書かれていません。因幡の白兎や根の国での試練の場面は、主に古事記に残されている物語です。同じ神様について、ふたつの書物が違う量で語っているということ自体が、伝承のあり方を示してくれます。
物語から読める人柄
オオクニヌシの人柄として、繰り返し描かれているのがやさしさです。
- 兎を助けたやさしさ
- 兄たちから何度も殺されても、報復に走らない
- 試練を恨むのではなく、ひとつずつ越えていく
- スクナビコナという小さな神様を、丁寧に迎え入れて一緒に国を作る
ただし、聖人として描かれているわけではありません。たくさんの妻を持ち、嫉妬の物語にもいくつも巻き込まれます。完璧な人物ではなく、傷つきながら歩き続けた神様です。
「縁結び」の神様、と呼ばれるようになったのは、いろいろな存在と関係を結びながら国を作っていった、その歩みに由来しているとも言われています。男女の縁だけを意味する言葉ではありません。
他の神様との関係
オオクニヌシは、関わる神様がとても多い神様ですが、特に近いのは次の二柱です。
- スセリビメ(妻)— スサノオの娘。試練を超えて結ばれた相手
- スクナビコナ— 小さな体の神様。海の向こうから来て、オオクニヌシと一緒に国づくりをした相棒のような存在
スクナビコナとオオクニヌシのふたりの組み合わせは、医療や薬の信仰と結びつく形で、各地に残っています。
今、オオクニヌシに会える場所
オオクニヌシを祀る神社は、全国にあります。代表的なところを挙げます。
- 出雲大社(島根)— オオクニヌシ信仰の中心
- 大神神社(おおみわじんじゃ)(奈良)— 三輪山そのものをご神体とする古い神社
- 気多大社(石川)
- 各地の大国魂神社、大国主神社
出雲大社の参拝のしかたは、ほかの神社と少し違うことで知られます(二礼四拍手一礼など)。事前に作法を確認していくと、ゆとりを持って参拝できます。
神社でのふるまい全般については、神社の参り方を合わせて読んでもらえると、出雲のような場所を訪れたときの感覚が少し変わるかもしれません。
おわりに
オオクニヌシは、何度も傷つけられ、それでも他者にやさしくあり続けた神様です。
縁結びという言葉の奥に、そういう神様の人柄があると知ると、出雲の景色が少し近く感じられるかもしれません。